あの子の好きな子



私と話すときとは違う声色。表情。やっぱり広瀬くんにとっての久保さんは何か特別なもののような気がしてならなかった。その特別な雰囲気が幼馴染というだけなのかもしれないけど、どうにもすっきりしなかった。

「あゆみ先輩」
「・・・・・・」
「あゆみ先輩、どうしたの?今の人知り合い?」
「え?」

辻くんの声がして、我に返った。そういえばさっきは辻くんの言葉に頭を混乱させていたんだった。もう、私の頭ではキャパオーバーだ。

「えっと・・・別にただ・・・女の子がきれいだなって思って見てたの」
「ああ、確かに。でも俺ああいうきれい系よりあゆみ先輩みたいなのが好きだよ」

辻くんの言葉が耳に届かない。辻くんが本気かどうかなんていうのは二の次になってしまって、今はどうしても広瀬くんの本音が気になる。昔からずっと幼馴染だって言ったけど、それはあくまで二人の関係で、広瀬くんの気持ちがどうたったかはわからない。それを知ったところでどうすることもできないけど・・・。

「ねえ、辻くん」
「なに?」
「辻くんは、どうして見てるだけで、その人の好きな人がわかるの?」

辻くんはきょとんとした。そのあとすぐに、あのにっとする笑顔をした。

「なんでって、わかるからわかるんだよ。ちょっとした表情とか、声色とか。なんか違うな、って」

ちょっとした表情とか、声色。
やっぱり、私が感じる広瀬くんと久保さんのなんとなく特別な雰囲気は、気のせいじゃないのかもしれない。

「先輩、もう、みんな帰って来てる頃かもよ。そろそろ戻る?」
「うん・・・」

結局、すべてわからないままだった。加奈ちゃんの好きな人も、辻くんの話も、広瀬くんの気持ちも。辻くんの話が全部本当で、広瀬くんの気持ちが私の予想通りだったら。私は頭の中で、複雑な相関図を描かなければいけなくなるかもしれない。




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