あの子の好きな子



「さっきの続きなんですけどね。健人、最初の方からそうなんです。あゆみ先輩がいるといないとで、モチベーションに差が出るんです」
「は、はい?」

加奈ちゃんは、座るとすぐに話し始めた。私は全く別の話題になることを期待したけど、まだ辻くんの話が続いていた。

「あゆみ先輩って、あの…ちょっと鈍いところあるでしょ、だから気付いてないのかなって思ってたんですけど」
「え?な、何が?」
「健人はホントにあゆみ先輩が大好きなんですよ。このまま先輩が部活に顔出さなかったら、やる気なくしてやめちゃうかも」

ちょっと待って…。
急にそんなことを加奈ちゃんに言われると、私はどうしていいかわからなくなる。大好きって何?どういうレベルで?

「やっぱり、初めて聞いたみたいな顔してる、先輩」
「え?だ、だって」
「健人のためにも来てくださいよ、ね。誘ったの私だし、健人には部活頑張ってもらいたいんです」
「う、うそでしょ?辻くんが私のことどうのこうのって」
「本当ですよ。…あゆみ先輩には好きな人いるみたいだし、健人のことはなんともないかもしれないけど…一緒に部活だけでも、してあげて下さい。だめですか?」

加奈ちゃんの至って真面目な口調で話す話を聞いていると、もしかして自分は広瀬くんのことを大の鈍感男だなんて言えないくらいにバカなんじゃないかと思った。加奈ちゃんにまで言われたとなると、辻くんの話は嘘でもからかいでもなく、本当だったってことになる。

「私も、先輩の恋バナの続き聞きたいし。だからできれば、来てくださいね」
「あ、うん、わかった…」

とりあえずの返事をする。加奈ちゃんの気持ちが気になって何度も表情を伺うようにちらちら見たけど、いつもの通りお花を散らしてニコニコしている、ただの加奈ちゃんだった。





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