あの子の好きな子



「昔・・・・・・」

ふいに広瀬くんが話し始めて、肩がぴくんと反応した。私が質問魔のせいなのか、もともとなのか、広瀬くんは自分から話し始めることが少ない。

「なんでこいつとって、思う相手とかいたけど・・・泣かされてばっかりだったりすると、むかついたけど」
「うん・・・」
「今は、いい。幸せそうだし、遥香が篠田のことすげー好きだなって、見てて思うから」

広瀬くんの話を聞いて、色々な感情が一気に押し寄せて胸が苦しかった。

広瀬くんの長い長い片想いが切なくて、
広瀬くんが久保さんを大事に思っていることが痛いほどわかって、
それが私じゃないことが悔しくて、

胸がぎゅっとして苦しい。

「そっか・・・」

それしか言えなかった。広瀬くんと久保さんの長い時間の中で、広瀬くんが自分の感情をぶつけたことはなかったのだろうか。認めたくない相手がいたのなら、広瀬くんが奪ってやってもよかったのに。久保さんを迷わせて、引き寄せて、自分のものにすることだってできたかもしれないのに。

広瀬くんは、臆病者というよりも、自分を押しつけるのが苦手なんだ。お前の好きなようにすればいい、広瀬くんがよく言う台詞だ。自分といれば幸せだよと言うことができなくて、久保さんが幸せだと思う道を自分で選べばいいと思ったんじゃないだろうか。

「ねえ、広瀬くん」

全部私の憶測に過ぎないけど。もしもどこか当たる部分があるのなら、私は広瀬くんに伝えたい。

私には、広瀬くんが一番幸せなんだよ。
私はいつも広瀬くんがいる一本道を選ぶし、その先が何であっても広瀬くんがいればいいんだよ。
こういう奴だって、いるんだよ。

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