あの子の好きな子



「・・・先生、先生はここで何してたの?」
「ん?この駅は通り道なんだよ。たまたま買い物でもしようかと思って、降りたんだ」
「そうなんですか」
「久保は、時間いいの?ご両親心配してるんじゃないのか」
「平気です。これくらいの時間になること、よくあるから・・・」

きっと、私にとって篠田先生は大事な先生なんだ。今までも、篠田先生のことが好きだったけど、それはやっぱり先生として。いつも私を安心させてくれて、元気をくれて、導いてくれる。篠田先生は、私の先生だ。
そう言い聞かせるように考えていた。学校じゃない場所で、暗い夜の道を二人で歩いて、こんなに胸がドキドキするのは、きっとそれが非日常だから。久しぶりに大泣きして、気分が高ぶっていたから。きっとそれだけなんだ。

「久保は私鉄?」
「あ、はい・・・」
「先生はJRだから。改札まででいいか?」
「はい・・・」
「じゃあ、気をつけて」
「・・・先生、ありがとうございました。あの・・・元気出ました」
「そうか、よかったよ」

先生と、別れてしまう。先生が人ごみの中に溶けていく。あのぼさぼさ頭が。あの人の良さそうな瞳が。意外と大きな背中が。姿が離れると、こんなにも胸が苦しい。心臓がどこかに持っていかれそうなくらい、あの姿が恋しい。やっぱりこれは、先生への憧れなんかじゃ、
憧れなんかじゃ・・・

「先生!」

先生、先生。何度か心の中でそう叫んだあと、ついに声に出した。駅を歩く人の波を分けて、走った。先生の、あのセンスの悪いポロシャツ。私の声に気付いた先生が振り返りかけたところで、私は先生のシャツをぐっと掴んだ。

「・・・・・・久保?」
「先生・・・、先生・・・」
「どうした、今度は」
「私・・・」

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