あの子の好きな子
遥香、私のこと、軽蔑した目で見てるよね。
そう言われたこともあった。私は小さい頃から頑固でおせっかいで、曲がったことが嫌いだった。仲良しグループの中で陰口を言うことが許せなくて、抗議したら私が外されたことがあった。クラスの知恵遅れの生徒を馬鹿にした男子に真っ向から歯向かったら、女番長だと恐れられた。中学校生活も後半になると自分の面倒な性格も自覚してきて、許せないことがあっても大人しくしているようになった。そうしたらある時、お前は人を馬鹿にした目で見てると言われた。軽蔑した目で見ることがあると言われた。文句を言うのをやめた代わりに、我慢した分の許せない感情が瞳に表れるのかと思った。無意識のうちに、少しでもインモラルな行動をする友人のことを蔑んだ目で見てしまう自分が嫌いだった。
「久保は、人一倍、正義感が強いからな」
「・・・え?」
先生はしばらく相槌を打ったあと、そう言った。私は自分のこの自己中心的な性格を正義感と結びつけたことはなかった。
「そういう人は、失敗したり、うまくいかないことも多いけど。久保のそういう真っすぐなところを見てくれている人がきっといると思うよ」
「真っすぐ・・・」
確かに昔の私はそうだったのかもしれない。感情をいっぱい込めてぶつかって、思い切り失敗してきた。
「もう、真っすぐさはなくなったんです。ただ頑固なところだけ残ってて・・・人と付き合ってても、斜にかまえちゃうんです、そこが嫌いで・・・」
「そこも、正義感の強い人間の不器用さなんじゃないかなあ。そうやって精いっぱい悩んで考えて成長していくのが、今の久保の仕事だと思うよ。なんて言ったら、ずるいか」
先生は笑って頭をぽりぽり掻いた。私は今まで自分の性格についての悩みを人に話したことがなくて、この苦しい気持ちは誰にもわかってもらえないって思ってた。それを先生がわかってくれたわけじゃなくて、ただ聞いて考えて、先生の意見を言ってくれたことが嬉しかった。先生が私のことをそんな風に考えてくれていたこと、私のために話してくれたことが嬉しかったけど、悩める高校生へのエールのようなそのアドバイスが、先生はあくまで先生なんだと感じさせた。
先生は生徒を見守る。
生徒は先生を信頼する。
その関係が出来ていることが少し寂しくもあった。