夫婦ごっこ

「紅波。」声がして振り返ると

「ん？」

スーツ姿に　髪の毛をきちんとセットして
大人の眼鏡をかけている人が立ってた。

「つ…ね…くん？」

あれから私たちは携帯での連絡のみで
しばらく会ってなかった。

「よく来たね。」

私の知っている近所の恒くんじゃなくて
冷たい目をした大人の大浦さんが立っている。

「うん……。
あれ　なんか感じ違うんだけど。」

少し不安になった。

「そうか？俺はこっちではこういう感じ。
紅波も慣れてよ。」


いつも紅って呼んでいたのに

『紅波』って響きも今までとは何か違う。

「契約スタートだ。
ここからは紅波は　俺の言うとおりの奥さんに
なってもらわないと困るよ。
最初はいろいろわからないことが多いと
思うけれど追々と慣れていくから。」


急に緊張してきた。
もっと気楽で遊び感覚だったけど…
恒くんは　想像と全然違った。


でももう後戻りはできなかった。
私の居場所はここにしかない。