夫婦ごっこ

夕方　帽子を深くかぶった華奢な男が
病室に入ってきた。

「あ・・・・・。」

「ビオンと言います。」

テレビで見るよりずっと華奢で女みたいな顔をしていた。


「お忙しいところありがとうございます。」

俺は複雑な思いで頭をさげた。

ビオンは俺から視線をずらし包帯だらけの紅波に
ゆっくり近づいて行った。

「紅波…おまえ…何してんだよ。
起きろよ　紅波……。」


俺はいたたまれなくて　病室を出た。


　　紅波…よかったな……。

　　早く目を覚ませ……。


俺はそう祈った。

目が覚めたとき　愛する男が目の前にいたら……
それが最高の目覚めになるだろう。


その時　紅波の病室にあわただしく看護師が出入りして
ビオンが出てきた。


「何かありましたか？」

俺が慌てて近寄ると
ビオンは興奮したように

「意識が戻ったみたいです。」と答えた。


俺は神に感謝して　手を合わせた。


「よかった・・・・・・・。」