君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
プロローグ
「ごめんなさい」
気がつけばいつも寝言でそう言っている。悪い夢をみた後は汗が気持ち悪い。朝の5時に起きだしてシャワーを浴びる。そのあとは制服に着替えて、適当に朝食をとって家を出る。いつまでも家にいる必要はない。渡会夏樹にとってはそれが日常だった。

「もう起きたのかい」
着替えを終えたばかりの夏樹に話しかけたのは一家の主・渡会裕之だ。
「はい」
そう一言だけ告げて夏樹は裕之をかわそうとしていた。しかし、裕之は夏樹を引き止めた。
「今度、三者面談があるらしいね。どうして教えてくれなかったの?」
「裕之さんに迷惑がかかるから」
「迷惑だなんて思うわけ無いだろう?夏樹は僕の大事な息子なんだから」
「・・・無理しなくていいよ」
夏樹はため息をついて自室へと戻った。それは反抗期の男子中学生が親を嫌がる反応とは違うものだった。

夏樹がこの家に住むようになったのは小学1年生の時だ。この年、夏樹は実の母親を失い、親戚と聞かされていた渡会裕之の元へ迎えられたのだ。裕之には妻と娘がいた。娘の小春は夏樹より2歳年下で、すぐに夏樹に懐いた。妻の千絵は不規則な仕事で家に戻ることは少ないが、夏樹のことを気に入っていた。小学生のうちは夏樹もそんな環境を受け入れていた。

しかし、中学生にもなると現実社会のことがはっきりとわかるようになる。進路も決めなければならない。夏樹にはそれが苦痛だった。

「でもさあ、面談は必ずしなきゃならないでしょ?僕が行くって先生に伝えてよ。来週中ならいつでも時間空けるからさぁ」
裕之はまだ諦めていなかった。夏樹の部屋の前で大声を出し始めた。
「仕事のことは気にしなくていいから、ね?ちゃんと伝えてくれないと先生から会社に電話がかかってくるんだから、頼むよ」
伝達事項を叫び終えると、裕之は部屋の前を離れた。夏樹はそれを確認してから部屋を出た。
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