君を救いたい僕ら―愛され一匹狼の物語―
「さようなら」
日直の号令に合わせて一斉に教室を飛び出す運動部員たち。女子もかたまりになってすこしずつ帰っていく。最後に教室に残ったのは本を終わりまで読んでしまいたい夏樹と、その隣の席に座る結子だった。
「終わった?」
夏樹が本を閉じたのを見て、結子が立ち上がった。
「は?」
「待ってたよぉ。待ちくたびれたよぉ」
「意味分かんない。俺、別にあんたに用ないけど」
夏樹は荷物をまとめて席を立つ。
「ゆーこが夏くんに用事あるの。聞いて」
「…何」
結子は夏樹の鬼の形相にたじろぎながらも、話を続ける。
「ゆーこん家来て。そこで色々喋ろ」
結子は夏樹の腕を引っ張って教室を出た。

二人が向かったのは学校近くの綺麗なマンションだった。
「ゆーこはここでお父さんと二人暮しなの。お父さんはギインヒショって仕事らしいよ」
議員秘書と聞いて夏樹は納得した。こんな高価なマンションに住んでいる同級生など珍しい。
「でもあんまり帰ってこないからよくわかんない」
結子は慣れた手つきで部屋の鍵を開けると夏樹をリビングに通した。
「ゆーこね、彼氏が茶髪似合うって言うから茶髪にしたのよ。でも、学校じゃ怒られるみたいだから、やーめた。戻すの手伝って」
「あ゛ぁ?」
まさかそんなことに巻き込まれるなど思ってもみなかった夏樹は怒りの表情を浮かべた。
「だってクラスの人よくわかんないんだもん。夏くんにしか頼めないー」
「彼氏に頼めば?」
「やだっ。恥ずかしくて頼めるわけないし」
(だったら俺にも頼むなよ)
夏樹は渋々髪色戻しを手伝うことにした。

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