カエルと魔女の花嫁探し
 カエルがしゅんとうなだれ、重く湿った空気を漂わせ始める。

 そんなに陰気にされると、こっちも滅入っちゃうじゃない。旅はまだ始まったばかりだっていうのに。

 セレネーはわざと朗らかな声で話しかけた。

「落ち込まないでよ、ちょっと条件下げればいいだけの話じゃない。お姫様じゃなくても、カエルの王子を愛してくれそうな乙女を見つけなくちゃ」

 話をしている内に、二人は北の国で一番大きな都にたどり着く。

 セレネーは都の中央で滞空すると、ポケットから水晶球を取り出し、眼下に広がる賑わいに向ける。
 肩越しにカエルが水晶球を覗いた。

「セレネーさん、なにをしているのですか?」

「足で探してたら時間かかっちゃうから、この水晶球で探すの――クリスタルよ、この国でカエルにキスしてくれそうな、気立てのいい娘を教えておくれ」

 セレネーが囁きかけると、水晶球はほんのり薄紅色に光り、一人の少女を映す。

 そこには食堂の看板娘と思われる少女が、昼時の忙しさに汗水を流し、懸命に働く姿があった。

 同じ給仕の娘にジーナと呼ばれ、少女は快活な声で返事をしていた。

 やや釣り上がった目は勝気そうだが、整った顔をしている。
 愛想はよく、接客の物腰も丁寧だ。仕事仲間に対しても心配りができている。
 親や弟妹を大切にしているようで、家事も喜んでやっているようだった。

「良さそうな娘じゃない。どうかしら、王子?」

「ああ、こんな方を妃にする事ができれば、きっと民にも心を砕いてくれるでしょう」

 夢見心地なカエルの声を聞き、セレネーはわずかに片眉を上げる。

 そんなに浮かれていたら、思わずボロが出て失敗するかもしれないでしょうが。
 でも、せっかくやる気を出しているんだから、水は差さないほうがいいわね、

 セレネーはあれこれ言い合い気持ちをグッと堪え、話を続けた。

「じゃあこの娘の所に連れて行ってあげるわ。でも、ちょっと夜になるまで待ってね」

「夜に? どうしてですか?」

「こういうのは雰囲気も大切なのよ。アタシに任せて、あの娘がカエルを受け入れやすくなるために演出するから」

 そう言うとセレネーは、一度都の端へ行ってホウキを降りると、時間つぶしのために街へと繰り出した。
< 10 / 34 >

この作品をシェア

pagetop