カエルと魔女の花嫁探し
 柔らかな漆黒の髪を後ろで束ね、深紅のローブに身を包んだ彼女は、この鬱々とした森にいても表情は明るかった。

 緑色の丸い瞳を輝かせ、目前の大釜を見据え続ける。
 彼女の日課は、小屋の中央にある大釜で、じっくりコトコトと薬草を煮ることだった。

 えぐみのある臭いが湯気とともに鼻へ入ってきたが、まったく顔色を変えずに柄杓で中を混ぜ続ける。と、

『やあ薬草狂いのセレネー、こんにちは』

 足元にちょこんと座った白いハツカネズミに話しかけられ、セレネーは手をとめずに顔だけ向けた。

「あらひどいわね、研究熱心と言ってよ」

『うんにゃ。フツーあんたみたいな若い娘が、こんな色気もないところで、一日中薬草と向き合ってるなんておかしいよ。オイラには狂ってるとしか見えないね』

「言ってくれるじゃない。単にアタシの文句を言いに来ただけなら、さっさと帰ってよ。研究の邪魔だわ」

『心が狭いなあ。せっかくこの間のお礼を言いに来たのに……』

「お礼?」

『オイラの好きな娘を舞踏会へ行けるようにしてくれて、本当にありがとう。豪華なドレスにかぼちゃの馬車、ガラスの靴……ああ、きれいだったなあ。オイラも馬にしてくれて、あの娘の力になれるようにしてくれたしさ。感謝してるよ』

 言われて「ああ、そういえば」とセレネーは思い出す。

 先月このネズミが『オイラの好きな子に力を貸してくれ』と頼み込んできた。
 叶わぬ恋だと分かっていても、少女に幸せになって欲しいと。
 その純粋な想いに心を打たれ、力を貸したのだ。

 優しい心根の美しい少女だったが、身なりはボロボロ。灰かぶり、と呼ばれていたが……魔法で舞踏会に行った後、王子に見初められて結婚したらしい。
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