カエルと魔女の花嫁探し
(これだけ世間知らずで鈍い王子に、ひとりで呪いを解いてくれる乙女を探すなんてできるかしら? また同じことの繰り返しになるような……でも、お節介でついていきたいけれど、今は大釜から目が離せないし――)

 あれこれ思案していると、耳元でネズミが『どうしたの?』と尋ねてくる。
 瞳だけを動かし、セレネーは横目でネズミを見つめた。

「王子、ちょっと待って! アタシも一緒に行くわ。今準備するから」

 言うなりバタバタと部屋の隅にあったホウキと、木の小枝のような魔法の杖を手に取ると、杖の先を肩のネズミに向けた。

「アンタ、ちょっと手伝ってもらうわよ」

『へ?』

 目を丸くしたネズミに構うことなく、セレネーは魔力を杖に送った。
 ボフッと煙に包まれ、驚いたネズミが床へ降りる。

 ――煙が消えると、そこには短い銀髪の見目良い少年が咳き込んでいた。
 少年は愛嬌のある丸い目で、うらめしそうにセレネーを見上げた。

「急になにするんだよ。オイラはこれでも繊細なんだから……あれ? ネズミ語が話せない!」

 オロオロする様がネズミそのもので、セレネーは思わず吹き出す。

「ごめんなさいね、意外とアンタ男前じゃない」

「当たり前だろ。ネズミ界じゃあ、ネズミの貴公子なんて言われてんだから」

「ふーん。貴公子なら、女性の頼みを断るなんてことはしないわね?」

「それは当然だけど……」

「じゃあアタシ今から家を空けるから、そこの大釜の中を混ぜててよ。お留守番よろしく!」

 じゃあ、と手を挙げると、セレネーはネズミの返事を待たずに踵を返し、呆然となっていたカエルを手に乗せる。

「アタシが一緒に行くんだから、さっさと呪いなんて解けるわよ。だから元気出しなさい」

「セレネーさん……ありがとうございます」

 深々と頭を下げたカエルから、温かい雫がひとつ落ちた。
< 8 / 34 >

この作品をシェア

pagetop