珈琲時間
12/1「前言撤回」
 最近の図書館は、とても使いやすくなった。
 背の低いあたしでも、どうにか頑張れば一番上の本に手が届く。
 それは、とてもよいことだ。けれど、ちょっこばかり、乙女のときめきを奪っているような気がしないでもない。

 「本が届かないときに、さりげなーくその本を取ってくれるとかさ、黒板の上の方とか楽々届いちゃう姿とか。そういうのって、大事だと思わない?」
 力説するあたしを見上げているのは、高所恐怖症で棚の上の整理をあたしに任せっぱなしにしている同級生。
 その彼に、あたしは嫌味ったらしく言葉を投げた。
 「あー、はいはい。そーですね。女の子って、自分の出来ないことを軽々やってくれる姿に惚れるからね。何でもかんでも楽しようとする心のあらわれだよね」
 梯子を押さえたまま、そんなあたしをあしらう彼だが、その言葉にも、どこか棘がある。

 「なによ?!」

 その棘が引っかかって、思わず振り返ったのは間違いだった。
 ただでさえ、バランスが必要な高所。
 そこでバランスを崩したあたしは、あれよという間に下へとまっさかさま。

 「…………っ、おまえなぁ!」
 そして、下敷きにしたのは、当たり前ながら下にいた彼。
 急に落ちたはずなのに、あたしの身体は、しっかりと彼に支えられていた。

 (…………)
 「前言撤回」
 「は?」
 怪訝そうな声を出した彼のシャツをぎゅっと握り締める。
 「危ない場所にいるときに、いつでも支えてくれる場所に誰かがいるってのも、結構大事だわ」

●恋愛未満。こういうドキドキは大歓迎(もちろん、相手にもよるけど・笑)
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