珈琲時間
 「新島?」
 どうにもならなくて、そのままでいると、階段の上からあたしを呼ぶ声がした。
 「 ――― 高宮くん?」
 絶対にありえない。
 ここは、普段人が通らない階段なのだ。その上、彼はあたしを嫌っているはずで、こんな風に、心配そうに顔を覗き込んだりも絶対にしない。
 そうは思うのだけど、それでも、目の前に居るのは、高宮くん以外の誰にも見えなくて混乱する。
 「大丈夫か? 具合悪いんだったら、無理しないで保健室に居た方がいいんじゃ……?」
 座り込んでいるあたしの肩を掴んで、保健室に向かわせようとする高宮くんに、あたしは意を決して顔をあげる。

 「高宮くん、嫌いな人にまで優しくする必要ないと思うよ」
 「……は?」
 「さっき言ってたじゃない。あたしが階段で転びそうになったときに『落ちれば良かったのに』って」

 気まずい時間が流れる。
 スッと、高宮くんの手が、肩から離れるのを見て、逆にあたしは冷静になってしまった。
 (やっぱり。……優しいのも、困りものだよねぇ)
 そのまま、何かを振り切るように、階段を駆け上ると、上に到着するかどうかのところで呼び止められた。

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