珈琲時間
12/16「真夜中の遭遇」
 彼を見かけたのは、コンビニにコピーを取りに行った帰りだった。
 明日の発表資料が、どうしても間に合わなくて深夜ひっそりとしたコンビニに向かった。
 仮にも、か弱き女の子のあたしにとって、夜中歩き回るというのは、意外と怖いものだったりする。携帯を片手に、いつでも誰かに連絡できる状態を確保して歩いていると、目の前の暗闇から、シュッ、シュッと、何かを振る音が聞こえた。

 (?)

 一定の間隔で聞こえてくる音に、首を傾げる。
 どこかで聞いたことがあるような、切れのある音。

 「……頼政?」
 ぴたっ。
 音が止む。
 「月子姉?」
 後姿に声をかけ、振り向いたのは近所の知り合いだった。
 手には、金属バットが握られている。知らない人だったら、一目散に逃げ出してしまいそうだ。
 「何やってるの? こんな時間に」
 「何って、自主練だよ。そろそろ試合近いし。ようやく念願のレギュラーも取れたし」
 肩にバットを担ぐ姿が、様になってる。
 2つ年下のこの少年(高校生だから、青年といった方がいいのか?)は、あたしの大事な弟分だった。
 だった、と過去形になってしまうのは、さすがに中学校に上がると、3年と1年では接点も何もなくなってしまい、話をする機会も減ってしまったからだ。
 それでも、もちろん顔をあわせれば挨拶程度に軽口を叩き合うくらいの仲は続いている。……それも、あたしが大学に入ってから、めっきり減ってしまったけれど。

 「月子姉は? こんな時間にコンビニ?」
 プリントのファイルと財布だけのあたしに、今度は頼政が問う。
 「うん。さっき完成したばっかなの」
 「変わってないんだねぇ。なんでも後回しにする癖」
 「……うるさいな。頼政だって変わってないじゃん。相変わらずの野球バカ」
 「俺のは傍から見ればカッコイイからいいの。夢に向かって夜も頑張る高校野球児~」

 そう言いながら、バットを倉庫の中にしまうと、何故か頼政はあたしの隣に並ぶ。
 「?」
 「コンビニ行くんでしょ? うら若い一応女子大生が、こんな時間にうろついてたら危ないって」
 「あら、珍しい。紳士になったじゃない? 頼もしいなぁ」
 「明日の朝、月子姉が行方不明になって、最後の目撃者になったりしたら嫌なだけだけどね」
 「結局、自分の心配?」

 笑いながら、ちょっとだけ斜め上にある顔を眺める。
 頭一つ分以上小さくて、撫でていた頭が、もう背伸びをしても届かない。
 そのことに、あたしはちょっとだけ淋しさを感じていた。

●幼馴染でもない、近所のお姉さんと青年のお話。
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