珈琲時間
12/4「他人の不幸は?」
「『他人の不幸は蜜の味』って、嫌な言葉だなって思っても、でも、そうだよなって納得してしまうことがあるのよね」

 学校の屋上で彼女はそう呟いて、空を見上げた。

 「『二人で居れば幸せは倍に、悲しみは半分に』って言葉もあるけど?」
 「……問題はそこ。それも感情は自分ひとりの物なんだからありえないと思うのに、そういうこともあるって知ってるのよ」

 同じように空を見上げている俺の方を見ようともせず、彼女はため息をついた。

 「どちらの意見にも納得できて、それでも、自分がどちらかの道を選んで貫かなきゃ自分が許せないときって、どうすればいいのかな?」
 「? どちらも理解できるのに、どちらかを否定する立場になりたいの?」
 「だって、どっち付かずじゃ、八方美人になるじゃない」
 「八方美人っていうのは、誰にでも好かれようと要領よく立ち回る人のこと言うんだよ?」

 そうやって悩んでいる時点で、新庄先輩八方美人じゃないよね?
 そう言うと、彼女はようやくこちらに顔を向ける。

 「他人のことを一番に考えたいと思う気持ちと、自分のことを一番に考えたいという気持ち、津田くんは、同時に存在すると思う?」
 「自分だけ幸せになりたいと思ったこともあるし、自分はどうでもいいから世界中の人が幸せだったらいいのにと思ったこともあるけど?」
 「……なんだか、どっちの立場にもつけないのって、幸せ逃してる気にならない?」
 「でも、それでもいいかって思ったりもするでしょ?」

 付加疑問文で聞くと、彼女は肯定するように優しく、儚げに微笑んだ。

●答えは、簡単に出るものじゃないし。出さなくてもいいかなとも思う。
< 4 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop