珈琲時間
12/8「ヲトメゴコロ」
 瞬きひとつは、カメラでいうならシャッターを切るのと同じこと。
 その瞬間に、心の中にあるフィルムには、その風景や人物がしっかりと焼き付けられる。
 だけど、この心のカメラには、とんでもない欠陥があるのだった。

 「希実ー。写真出来上がった??」
 文化祭も終わってひと段落したある日の放課後。
 写真部に所属しているあたしは、友人の茉莉香と一緒にその文化祭のときの写真を現像していた。
 「うーん、うん。出来たことは出来たんだけど……」
 いまいち歯切れの悪いあたしの返事に、茉莉香は自分の写真をひょいっと適当な机の上に放り投げてこちらへ向かってきた。
 そして、写真を手に顔をしかめたあたしの横からソレを眺めると、あらら、と声を上げる。
 「希実ってば何時の間に葛岡の写真なんか撮ったの? しかも、これって最後の花火を観てたときのじゃない」
 暗闇の中、空を見上げる男子生徒と、その奥にある校舎の窓に写った花火が上手い具合に一枚に収められている写真。引き伸ばして額にでも入れれば、ちゃんとした作品に見えなくともないくらいには綺麗に撮れたと思う写真。
 「写真部員として、撮らずにいられない瞬間だったの」
 「……あんたねぇ。普通の写真部員だったら、花火の方を撮るわよ」
 呆れ顔の茉莉香が、何を言いたいのかはわかっている。
 「普通の人と同じもの撮ってどうするの。『視点を変えて物事を捉える』のも大事でしょ」
 部室のドアに貼られている<写真の心得>の2番目を読み上げる。
 けれど、茉莉香はあっさりとそれを無視した。
 「言い訳はいいわよ。つまり希実はずっと葛岡を見てたってことなんだし。……でも、いい写真だね、コレ」
 あたしの手から写真を取り上げると、茉莉香はとんでもないことを言い出す。
 そりゃ、あたしだって、意外にいい写真が撮れたなぁと思わなくもない。
 だけど、それはこの写真に写っている人物が葛岡じゃなかったときの場合だ。

 「いい写真?」
 「うん。祭りの終わりを惜しむような、でもひとつのことをやり遂げた充実感、って雰囲気あるもん。さすが次期部長」
 「……どこが?」
 「え?」
 せっかく褒めてくれたのに、悪いけれど、この写真はネガごと処分しようかとまで思っていたのだ。

 (……だって、この写真)

 「全然、葛岡の良さが出て無いと思わない?」
< 8 / 40 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop