魔王と王女の物語
リロイが元気だったのかを確認して安心したラスはまた大人の目をかいくぐって森に行くと、


憩の場となっている小川に脚を浸して、木々に遮られながらも優しい陽光が降り注ぐ空を見上げた。



「ねえ、私ってこのままずっとここに居なきゃいけないと思う?」


『さっき影と話すなって注意されただろ?いいのか?』


「だって私の話し相手になってくれるのはリロイとコーだけだもん。ねえ、コーってお父様から退治されたの?なんで私の影にくっついてるの?」


矢継ぎ早に質問すると、コハクは何も隠さずに正直に告げる。


『俺が悪者だからチビの父ちゃんに退治されちゃったんだ。どうだ、ワルだろ?』


自慢げに言ったが、ラスは思いきりきょとんとした顔で、自分の影に目を落とす。


「全然悪くないよ?だってコーはいつも注意してくれるでしょ?“早く寝なさい”とか」


『そりゃあ俺はお前の“勇者様”だからさ、チビが綺麗になるんならなんでもしてやるよ。なんでもな』


またくつくつと笑い、そういった笑い方をする時は決まって意味を教えてくれないので、

小川から脚を抜くと水浸しのまま立ち上がろうとしたラスにコハクが“待った”をかけた。


『待て待て、そのままじゃ靴も履けないだろ』


自分の影からぬうっと頭が出てきて、あっという間に全身が現れる。


黒ずくめの出で立ちのコハクと会うのはこれが2度目で、

ラスはちょっとドキドキしながら自分の脚を取るコハクの大きな手を見つめた。


「コーは…私の“勇者様”なの?悪い人なの?どっち?」


「ワルだし、勇者さ。けどチビのためだったらなんでもしてやるよ。ほら、拭いてやるからじっとしてろって」


長く黒い前髪が顔を隠したが、口元はにぃっと笑んでいて、その唇がとても綺麗でラスはじたばたともがいた。


「こらっ」


「もう大丈夫だから!コー、戻ろ!」


脚が濡れたまま靴を両手に歩き出したラスの背後を歩いていたコハクがいきなり抱き上げてラスを驚かせる。



「コー!?」


「10年後、俺の城に来いよ。そしたら楽しいことしてやるからさ」



意味はわからなかったが、とりあえず頷いた。

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