魔王と王女の物語
森の奥、小川の近くでラスが膝を抱えてうずくまっている。

ティアラが背中を撫でてやりながら、顔を上げないラスに言い聞かせていた。


「これからは毎月訪れるのよ。いつか子供を生むための準備を始めたのよ」


「チビ」


呼びかけるとびくっと身体が引きつり、それでも顔を上げないラスの背後に立って、顎でティアラを退けた。


「ラス、何かあったら言って。なんでも相談に乗るから」


「…うん…ティアラ、ありがとう」


去る間際、ぎらっと魔王を睨みながらティアラが馬車の方へと戻り、そして沈黙が流れた。


――正直コハクもどう言葉をかければいいのかわからなかったが、首をかきながら隣に腰かけた。


「あー…、その…チビ、腹はまだ痛いか?俺が痛くないようにしてやろうか?」


「…ううん、いい。毎月来るんだもん…」


まだ顔を上げずに涙声で耐えるラスがいじらしく、肩を抱いて無理矢理自分の身体にもたれかからせると、とうとう嗚咽が漏れた。


「ヤだ…、ヤなことばっかり…!毎月1週間も痛くなるなんてヤだ…」


「…でも俺は嬉しいけどな」


「…どうして?」


顔を上げたラスの瞳は赤くなっていて、ここずっと心細い想いをさせていたのと、そして女への階段を一歩ずつ上っているラスを大切にしたいと思う気持ちが交差して、


ぺろっと頬を舐めて壊れないようにぎゅうっと抱きしめた。


「だってさ、これで俺の子供が生めるじゃん」


「…どうして私がコーの赤ちゃんを生まなきゃいけないの?」


「俺が生んでほしいから」


――コウノトリが赤ちゃんを運んでくるわけではない。


コハクからそう教わり、ラスの顔が…いや、身体も真っ赤になった。


「で、でも赤ちゃんは好きな人とじゃないと…」


「だから俺を好きになればいいじゃん」


…ようやく告白紛いの愛をラスに囁くことができた魔王はコーフンしながら視線をさ迷わせるラスの唇を指でなぞった。


「俺の城に着くまでに答え出せよ。チビにたっくさん子供を生んでほしいからさ、生理なんざ来なくしてやるよ」


「こ、コー…」


静かなキスを贈る。
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