魔王と王女の物語
「お腹痛い…」


妖精の森に向かう間、急にラスがそう言って馬車の中で横になった。


今まで体調を崩すことなど滅多になかったのでティアラがリロイを呼び止めて馬車を止めさせると外に連れ出す。


「大丈夫?どうしたの?」


顔色もかなり悪く、さすがに心配したコハクが手を伸ばして顎で森の方を指した。


「ついてってやるよ」


「ううん、いい。1人で行くから」


…ここ最近そうやって突っぱねることが多く、自分が原因だとわかっていつつ、魔王は何の対策も取って来なかった。


「リロイ、ついて来て」


だがラスの口から出たその名に過敏に反応して、脇を通るリロイのマントを思いきり引っ張ってよろけさせた。


「なにするんだよ!」


「ふざけんなよ、なんで俺が駄目でお前ならいいんだよ!」


「そんなのラスに聞けばいいだろ!」


ごもっともだ。

普段ならこうして諍いをする時に“喧嘩は駄目”と一言注意が入るのだが、それもなくよろよろと森の中へ入って行った。


「お前が私の気ばかり引こうとするからだ」


グラースが抑揚のない声と表情で鼻を鳴らし、ティアラが汚いものを見るかのような目で見て吐き捨てた。


「最低。やっぱりラスの“勇者様”はリロイだわ」


「小僧はボインの“勇者様”じゃねえのか?」


にらみ合っていると…リロイが焦った様子で口元を手で覆いながらティアラに駆け寄り、耳打ちをした。


「え…、そ、それは大変だわ」


コハクが訳が分からずぽかんとしていると、ティアラが馬車の中から白のバッグを引っ張り出し、ラスが消えて行った方へと走って行く。


「おい小僧、一体どうなってる?」


「そ、その…」


言いにくそうに口を開けたり閉じたりしていたが…10分後、ついにそれを口にした。


「ラスに…その…女性特有の…アレが来たんだ」


「!」


――16歳で初潮を迎えるのは遅く、ラスの身体が女への準備を始めた証。


「へ、へぇ~…ふーん…」


リロイの顔もかなり赤かったが…


魔王の顔はそれを遥かに上回って赤かった。


そしてすぐさまラスの元に向かった。
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