魔王と王女の物語
ブルーストーン王国まで目前だったが一行は馬車を止めて、木陰で休憩をすることになった。


ラスの定位置はコハクの膝の上。

リロイはそれを見て見ぬふりをしていた。

最近全然話もできないし、目も合わせてくれないリロイのことが気になるラスはずっとそわそわしていて

超のつくやきもち妬きの魔王は半ばラスを羽交い絞めするかのようにして背中から抱っこして座っていた。


「あの国は各国とは友好を持たず、ずっと閉ざされた状態で存在し続けている。私が居れば入れてもらえるだろうが…石の加護は難しい」


「それは困る。このカイ陛下の剣に必ず聖石の加護を頂かないと…」


「…リロイ…」


いつもは優しい笑みを浮かべているリロイの顔は無表情で、隣に座るティアラが労わるようにリロイの腕に触れた。

そんな光景を見ながらラスが肩越しに振り返ると、すぐ傍にはコハクの唇があった。


「ねえコー…剣に石の加護を与えてどうするの?…リロイは…その剣でコーを…」


「まあそういうことだろうな。今あの魔法剣は大した力がねえ。だけど石の加護があれば不死の俺を倒せるかもしれない」


――コハクが殺される?

コハクが…居なくなる?


それは到底想像できることではなく、胸に回っていた魔王の手を剥ぎ取ると憤然と立ち上がり、

驚くリロイとティアラ、グラースに言い放った。


「コーになんにもしないでって言ったでしょ!?絶対駄目なんだから!コーが何をしたの!?コーが死んだら…私も…っ」


「こらーチビ、コーフンすんなって。こいつらにはできやしねえよ。俺は絶対死なない。約束する」


「コー…うん…居なくならないで」


きゅうっと抱き着いてきたラスの背中を宥めるように撫でてやり、

かつ睨みつけてくるリロイを馬鹿にするように鼻で笑いつつ、魔王の赤い瞳が不気味な光を発した。


途端眩暈を覚えたリロイがよろめいて木の幹で身体を支えると、ラスが聴いたことのない低く怨嗟のこもった声で、呟いた。


「お前だけは…僕が絶対に…」


「聴こえてるぜ。洟垂れ小僧が…俺をなめるなよ」


ラスは絶対に離さない。


2人ともそう誓ってラスを見つめた。
< 246 / 392 >

この作品をシェア

pagetop