魔王と王女の物語
不吉な考えを捨てなかったコハクは…白馬に騎乗したリロイを睨みつけていた。


「チビに何をした?」


「何もしてない。言っておくけど、僕の部屋に入ってきたのはラスの方だからな」


「くそガキが…お前マジで覚えてろよ」


捨て台詞を吐いてラスを抱き寄せると馬車に乗り込み、まだ眠っているはずのレイラを思ってにたりと笑い、ラス一行は街を後にした。


――その数時間後にレイラは外から聴こえる騒動に目を覚まし、1階へ降りると姉2人と継母が興奮していていた。


「どうしたの?」


「王子が昨晩のパーティーに来てた綺麗な女性を捜してるのよ。あんたは関係ないんだから早く掃除を始めなさいよ!」


どうやら王子と従者は一件一件家を回っているらしく、とうとうレイラの住む家にもやってきて、従者が抱えている立派な黒いケースの中には…


昨晩階段を駆け下りた時に脱げたクリスタルの靴が収められていた。


「この靴を履いていた女性を捜しています。こんなに小さな脚の女性はなかなか居ません。どうか履いてみてください」


「は、はいっ」


姉2人は王子を前に緊張しながら靴を履こうとしたが…サイズが小さすぎてかかとすら入らず、レイラはこの時階段の手すりを拭いていた。

だが存在に気付いた従者が王子の肩を叩き、そして王子がこちらを見た気配がした。


「あなたは…」


「…」


「…どうかこの靴を履いてみて下さい」


――この時点でレイラはまだ王子の顔をまともに見ていない。


そしてコハクに言われたことを思い出して、顔を上げた。


「…!!」


「あなたは…靴を履かなくてもわかる!昨晩私が求婚したのは、あなただ!」


片膝をついてレイラの手を強く握ったのは…コハクだった。


いや、レイラにだけは王子の顔がコハクに見えるように、呪いをかけられたのだ。


「コハク…さん…」


「?レイラ、どうか私の求愛を受けて下さい。あなたじゃなきゃ駄目なんだ」


コハクの顔の王子が求愛をする――


コハクではないとわかっていても、レイラはうっとりして、その手を取った。


「はい…喜んで…」


靴を履いた。
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