魔王と王女の物語
コハクとラスが城を出たと同時に、城の崩壊が始まった。


「振り返らず走れ!」


魔王にとって最も強敵であるラスの父のカイに認めてもらえるかもしれないアイディアが浮かんだことで張り切った魔王は、ラスを抱っこしたまま周りに結界を張り、


珍しく、走っていた。


「コーが走ってるのはじめて見たかも」


「そうか?まあ身体動かすのはアレ以外好きじゃないからな」


「アレってなに?」


「ナニがアレなの」


また言葉遊びが始まってしまってラスが意味を考えているうちに王国の出入り口に着いて、


がらがらと音を立てて崩れ落ちて行くイエローストーン王国の崩壊を皆で見守り、

氷の山に変わったその姿と、水晶が暴発した結果、こういうことになった凄まじさに、息を呑んだ。


「コー…みんな呑まれちゃったの…?」


「そうだ。みんな氷になっちまった。言っとくけどこの先には水晶の森がある。魔力をフルに蓄えたままの水晶や、水晶の墓場もある。気をしっかり持てよ。でないと気が狂うぞ」


「…わかった」


皆息が上がっているのにコハクは全く乱れもせずにラスを馬車に乗せて後から乗り込むと、マントを広げてラスを抱き込んで身体をあためてやった。


「寒いか?」


「ううん、コーがあったかいからいい。ねえ、水晶の墓場って…コーの…」


コハクの赤い瞳は、もう思い出せなくなった位に遥か昔の記憶を手繰り寄せるように遠い瞳をした。


何故かコハクを急に遠く感じてラスがぎゅっと抱き着くと、頭を撫でながらふっと笑って背中も擦った。


「チビ、この話は師匠の家に着いた時にしてやるよ。あんまり面白い話じゃねえんだけど」


「ううん、知りたい。コーの秘密、沢山知りたいから教えて?」


気遣ってくれるグリーンの瞳。

ラスに“化け物だ”と言われたくなくて、揺れるコハクのレッドの瞳――


「…俺のこと、嫌わないか?」


「当たり前でしょ?コーは私の影だし大切な人だもん」


急にもじもじしだして俯いたラスの顎を取って上向かせると、

頬はほんのり赤くなっていて、むらむらっと来た魔王はラスの下唇を唇で挟むようにして小さなキスをした。

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