魔王と王女の物語
1日をかけて後戻りするため、その日は野営となった。

またコハクがいつものように森の中へと消えて行き、その代りにグラースが隣に来てくれて、ラスの口に甘いキャンディを放り込んだ。


「疲労回復の効果があるそうだ。さっきの村で買ってみた」


「お師匠様が作ったのかも。美味しいねえ」


カラコロ音を鳴らせて笑いかけながらも、コハクが消えて行った方にまた視線を戻したラスは健気で、

そんなラスに久しくリロイが笑いかけて、優しく手招きをした。


「ラス、寒いでしょ?こっちにおいで」


寒冷地帯から遠ざかったこともあってかもう寒くはなく、

リロイが以前のように優しい笑みを見せてくれたので腰を上げようとすると、グラースから手を引っ張られた。


「グラース?」


「…一緒に魔王を捜しに行こう。私がついて行ってやる」


「じゃあ一緒に行こ」


――まだ傷ついたままのリロイの手をそっと取ったティアラもまた無言のまま魔法で治癒をかける。

…今は傍に居れるだけでいい。


――馬車を止めると必ず森の中へ消えて行くコハクが何をしているのか、今までラスは知りもしなかったが、

奥の方まで行くと暗闇の中声が少しだけ聴こえて立ち止まった。


「じゃあそういうことだからな。荒れてたらマジぶっ飛ばすぞ」


「わ、わかりました」


くぐもった声が返事をして、ラスの足元の草がかさりと音を立てると何かが飛び立つ音がして、コハクがゆっくりと振り返った。


その顔には少しだけ焦りの色。

途端、ラスの頬がぷうっと膨れて慌てて駆け寄って来ると抱っこして唇にちゅっとキスをしながら、動揺。


「コー…今のなに?」


「へっ?いやあ、今のは別に……チービー、ほっぺ膨らませんなって。今のはなんでもねえし」


「じゃあ教えて。今のなに?」


…意外と頑固な面のあるラスに追及されて口を開け閉めしていたが、ラスに隠し事は一切しないと決めた魔王は1日の猶予を申し出た。


「明日になったらわかるし。な、それで許してくれよ」


「…うん、わかった」


――すでに魔王を尻に敷いているラスがおかしくて、グラースがまた噴き出した。
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