お姫様だっこ



部屋に戻りテレビをつける、


歌番組が始まっていた。


番組が中盤に差し掛かった頃、昔の懐かしい曲特集が始まった。


何曲目かに流れた曲があたしの心を暗くしてゆく…


嫌な記憶を蘇らせたんだ。



父が去った一度目の記憶。


父親は出て行ったり帰ってきたりを繰り返してたんだ――……










あたしはその日、机に向かって宿題をしていた。小学5年生だったかな。


その時好きだった歌手の曲をかけながら宿題してたんだ。



暫くすると閉めていたドアの向こう側から声がした。


いつも聞いてる父親の声。





「美優ちゃん…ばいばい」






何が起こったか分からなかった。今まで普通に部屋に居た父親がバイバイって……―?



ドアを閉めてたから父親の姿は見えなくて。


荷物を持ってるのに気付かなかった。


父親の声のトーンがいつもと違った。





あたしは何かを感じたんだ。





あ、居なくなる―…。




父親はもう帰ってこないんじゃないかって察知した。何故こんな勘が働いたのか不思議だけど。



あたしの思った通り






父親はその日戻って来なかった――――…
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