魔女の悪戯
レオはまた困惑の表情を浮かべる。
まずは、建物に入る時に履物を脱がされたこと。
いつものようにそのまま行こうとしたら、小姓達に止められた。
草履を脱いでないじゃないか、と。
幸い、本物の忠純も今日は姫のことで朝から呆けていたために。
忠純殿は姫に会いたくて仕方がないのだな、と笑われただけで済んだのではあるが。
それに、この建物。
姫君が居るくらいだからお城なのであろう。
しかし、石造りのクリスティア城とは違い、木造建築。
部屋の造りも調度品も、見たことがないものばかりで。
キョロキョロと辺りを見回す忠純に、呼びに来た柚姫の侍女・広崎局は不信感を抱いたものの、とりあえず姫の部屋の前まで到着した。
「さ、どうぞ。」
女性に促されて部屋に入ると、中にいたのは小柄で可憐な姫君だった。
レオを見た姫は、ニコニコとした表情に変わり。
「忠純、早く入ってらっしゃい。」
鈴が鳴るような声で促されて前へと進み出る。
姫の御姿は、見れば見るほどに可憐。
クリスティア王国の女性達のように、金色の髪も青色の瞳も持ってはいなかったが、
墨を垂らしたかのように長くツヤツヤとした髪と、髪と同じ色をした大きな美しい瞳。
雪のように白く透き通った肌は、より一層その髪と瞳を引き立たせ、レオからすれば神秘的な美しさを持っていた。
華奢な身体を包むのは、フワフワとしたレースやフリル、リボンをふんだんに使ったドレスよりもずっとシンプルで。
マーメイドドレス程身体のラインは出ていないが、すらっとした服。
そこにはシンプルな花柄に、腰の辺りには赤いバンド。
大きな花や雲や水の流れが描かれている、美しいローブのようなものを上から羽織ったその姿に、レオは騎士としての礼節をしばらく忘れる程に見入っていた。