魔女の悪戯
「畏れながら、そのお相手とは、一体…?」
言われてもわからないはずなのに、忠純は聞かずにはいられなかった。
ラウロはとにかく迷っている、という表情でまた頭を掻く。
「隣国のカルボーロ王国の第一王子の、カイルだ。
僕の親友だし、歳もラミアのひとつ上の19歳だから、僕としてはこれ以上の相手はいないと思っている。」
「素晴らしい縁談ではございませんか。」
「レオもそう思うか?」
「は。
願ってもない御縁にございます。」
「そうだな、僕もそう思うよ。
でも、ラミアが本気で嫌がったらと思うと、迷ってしまう。
だから、レオ。
お前にラミアを説得して欲しい。」
「は。
………は?」
「ラミアも、お前の言うことなら少しは聞くと思う。
頼む。」
「さ、されど!
私などが、宜しいのでございましょうか。
私は一介の兵に過ぎず、まして姫君の御縁談の説得というのは些か荷が重く、それに…」
──私は本物のレオナルドではないというのに…。
柚姫様の、守り役なのに…。
不意に、柚姫の笑顔が頭をよぎる。
魔女のせいで、今生の別れすら言えなくなったかも知れない柚姫。
今頃どうしているのか。
「いや、お前だから頼みたいんだ。
この通だ。」
王子にそうまで言われて、断る訳にもいかず、
忠純は予想外の事に本気で逃げ出したくなった。
「…承知、致しました。
微力ながら、姫様の御縁談の件、私からも説得させて頂きとう存じまする。」
忠純は深々と頭を下げた。
いつもの紳士的なレオと違う忠純に、ラウロは思わず笑いそうになる。
「よろしく。
このあとすぐにでも行ってくれ。
ラミアには僕から使いを送って知らせておこう。」
「ははあ!」
忠純は覚悟を決めて、ラウロの部屋を後にした。
忠純が出て行った後、ラウロが爆笑したのは言うまでもない。