魔女の悪戯
クリスティア城本城の入り口には、大きな木製の扉。
ラウロが近づくと、扉の番をしていた兵士が二人掛かりで扉を開いた。
ラウロはそのまま城の中に入って行く。
──履物は脱がないのだな。
忠純も躊躇いがちにラウロに続く。
城の中に、忠純は目を見張った。
高い天井、大きなシャンデリア。
真っ赤な絨毯の引かれた廊下。
忙しく働く、女官に召使。
──どうやら儂は、とんでもない所に飛ばされたようだ。
忠純は苦笑するしかなかった。
随分城の奥に来て、ある部屋の前でラウロが足を止める。
召使が扉を開けると、広い部屋の中に、シンプルだが高価そうな家具。
その家具を見ると、机や椅子、ソファだけでなくベッドもあり、
ここはラウロ王子の私室のようだった。
忠純も一礼してから部屋に入る。
ラウロはソファに腰掛けると、困ったようにため息をついた。
「レオ、いつもすまないな。」
「いえ。」
──いつも?
「昨日の晩も、ラミアに無理矢理付き合わされたんだろう?
あれは、外面はいいがお前には迷惑ばかりかけている。
困った妹だよ。」
「そのような…」
口先だけで返事をしながら、忠純はますます身体の持ち主のレオナルドを感心する。
──皇子ばかりか、皇子の妹にまで近侍しているとは、とんでもない男だな。
「それで、お話と言うのは?」
忠純が尋ねると、ラウロはもう一度大きなため息をついて、頭をかいた。
「レオ、僕は妹が大切だ。
だから、ラミアには幸せになって欲しい。」
「はあ。」
「ラミアに、縁談が来ているんだ。」
「っ!
それは、良き事と存じますが。」
「うん。
でも、ラミアはきっと拒む。
ラミアは我が儘な王女だけど、何だかんだ言ってこの国が、城が、皆が大好きなんだ。
この国を離れなきゃいけない縁談なんて、きっと嫌がるだろうね。」
「されど、貴方様は御縁談には賛成なのでございましょう?」
「ああ、さっきも言ったように、僕は妹に幸せになって欲しいからね。」