魔女の悪戯
レオは鏡を有り難く頂戴し、とりあえず懐に仕舞う。
レオにとって着たことなどない、着物。
懐か袖口くらいしかものを仕舞えないということは、この部屋に来る途中で気づいたのだった。
「今宵の宴には、そなたも来てくれるのであろう?」
柚姫は純白の笑顔でレオに聞く。
レオは内心、俺はタダスミではないからそんなの知らん、と思いながらも、
「ええ、是非。」
と適当に答えた。
柚姫は嬉しいと言わんばかりにニコニコとご機嫌になる。
「宴の前に、一度ここに来てはくれぬか?
昔、そなたがしてくれたように、最後にもう一度、髪を梳いて欲しいのじゃ。
十七にもなって夫でもない殿御に髪を梳いてもらうなど、はしたないのはわかっておる。
頼む、私の最後の我が儘じゃ…」
最後は消え入りそうな声で呟いた柚姫。
儚げなその美しさに、レオは拒否など許されないと感じた。
「では、その時にまた参りましょう。」
柔らかな微笑みを浮かべながら、約束する。
柚姫は今にも泣きそうだった。
──この方は、何かを思い詰めていらっしゃる。
きっと、タダスミが好きで好きで仕方ないのだな。
けれど、姫君と臣下では叶わぬ夢と、ご自分の運命に抗えなかった…。
王女は…
ラミア王女は、こんな風にすべてを受け止めるようなことはしないだろう。
あの我が儘王女ならきっと、己の思うまま、たとえ陛下やラウロ様の命令でも…。
レオのなかで、柚姫とラミア王女が重なり合う。