魔女の悪戯
少女に近づいて行くと、少女もこちらに気づいたのだろう、顔をこちらに向けた。
そのまま、美しい顔をくしゃくしゃに歪めて、ギロリと睨まれた。
少女の見た目は、金色の長いさらさらの髪に緑瑪瑙のような瞳、陶磁器のように白い肌。
誰がどう見ても、絶世の美少女。
その見た目に似つかわしくない、ずかずかした歩き方で、忠純の所に一直線に向かってきた。
言うまでもないが、ものすごく不機嫌そうである。
忠純のすぐ近くに来ると、自分よりずっと背の高い忠純を鋭い目つきで見上げ、一気に言葉を発した。
「レオ、どういうこと!!?
あなたが来るってお兄様から聞いたから、せっかくお茶を用意して待っていてあげたのに!!!
私を待たせるなんて、何をしてたのよっ!!!?」
──なっ!?
いきなり怒られて、忠純は一歩身を引いた。
少女、もといラミア王女はそのまま忠純に詰め寄る。
──この方が王女か。
随分と高慢だが、王女なら仕方ないだろう。
さて、何と言ってごまかそうか。
王女にとって、レオは忠純ではなくいつものレオなわけであって。
いくらなんでも、迷子にはならないだろう。
「も、申し訳ござ…」
元々律儀な上に、困惑気味で頭が働かなくて上手いこと言い訳出来ず、とりあえず謝ろうと頭を下げかけたその時。
王女はぎゅうっと忠純に抱き着いた。
その衝撃で、少しよろけたが、なんとか踏み止まる。
突然の事に、忠純の頭は沸騰寸前。
王女は抱き着く腕の力を強め、忠純の胸に顔を埋めながら言った。
「私、絶対に結婚なんてしないから!!」
「えっ、あの、しかし…っ」
柚姫の守役として傍らにつきそっいていたこともあったし、髪梳きくらいならしたことのある忠純だったが、こんなふうに女性からきつく抱きしめられたことはなく、忠純は激しく狼狽していた。
それに構わず、王女はさらに言葉を続ける。