spiral

「……うん。大事、です」

言葉にすると、想いがリアルに変わる。頭の中だけの想いじゃなく、自分のものになったみたいになるんだ。

風がふわりとカーテンを揺らした。心地いい風。外ではみんなが楽しそうにしている人の姿がみえた。

「次はね、裏庭の内緒の場所。ここでもいいものが見れるよ」

凌平さんがドアの方へと歩き出す。あたしは窓を確かめ、もう一度だけ振り向く。

「いつか、見にいけたらいいな」

そう小さな声で呟きながら、凌平さんの背中を追った。

 あの後何か所か、凌平さんが学校の案内をしてくれた。

あの教室の後に行った裏庭では、四つ葉のクローバーがたくさん取れた。

「はい、心さんにおみやげ」

生徒手帳に挟んで持って帰ってきたクローバー。

「よく見つけたわね」

受け取って、同じように生徒手帳に挟んで、「大事にするね」と笑ってくれた。

「見つけるの大変だったでしょ」

そういわれ、凌平さんを横目に見ると「ううん」という。

「群生地あるから」

「群生地って。……なんだか有難みが半減しそうね」

言われても仕方がないくらい、それしか見当たらなかった。普通のクローバーを探すのが、逆に大変だった。

「でもお守りになるかなって」

生徒手帳に挟んだクローバーを指先でつつき、同じように手帳を閉じてポケットに入れた。

「じゃあ、あたしたちだけのお守りね」

「うん」

二人でそう笑いあってたら、「今度は二人だけの世界?」とか凌平さんが言う。

「いいじゃない。さっきまで独占してたんでしょ」

「そうだけどね、なんとなく妬ける」

女同士なのになと思いつつ、心さんをみるととても心惹かれる笑顔を見せた。

「ここ、ろ……さ」

今までにない表情。こんな顔もするんだ。

「え、と。その、そろ……そろ時間、だね」

艶があるっていうのかな。ものすごく大人の表情であたしを見つめてたから、つい反応してしまった。

「そうね。原稿用紙忘れないでね」

いいながら赤くなって俯くあたしの手を握った。

「心さん」

声が大きくなってしまう。だって、つなぎ方が恋人つなぎだし。

「女同士ってズルイよなぁ」

凌平さんのそんな声を聞きつつ、あたしは手を振りほどけないまま、ゾロゾロと体育館に向かった。

 凌平さんに緊張してないとか言ってたくせに、いよいよとなってくるとダメだ。

「落ち着かないわね、マナ」

「だ、だって。こういう場所に慣れてないもん」

駄々っ子のように返すと、「こっち来なさいな」と体育館横の階段から外に出た。
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