spiral
「これだから、自分のこと分かってない人は困るんだよ」
くすくすと笑って、そう言われたものの、
「なんで困るんですか?」
わかるはずがない。
「年齢なんか超えちゃうんだって、マナっていう女の子は」
いよいよ理解に苦しむ答えしかくれない。きっと頭上にはハテナがたくさん浮かんでる。
少しの間、凌平さんが黙ってしまう。
どれくらいの時間が経ったんだろう。時間までには戻らなきゃなんて、気にし始めた時だった。
「次、行こうか」
凌平さんが体を離した。
「裏案内。1か所だけじゃないよ」
今更のように思い出した。案内してもらってたんだった。
「窓閉めていかなきゃダメですよね」
窓に近づき、閉める前にもう一度コスモスの花畑を望む。
きれいなオレンジが一番目についた。明るいオレンジ。あんな色みたいに、惹きつける色になれたらいいのに。
そう考えたら、なぜか自然と口が動き出していた。
「発表のこととか、ママのこととか。考えてないわけじゃないんだけど、頭の端っこに置いてあるだけで。あたし、あまり緊張してないみたい」
コスモスを眺めながら、そう話す。
「うん」
「正直怖いんです。いつか消されるって思ってないわけじゃなかったし。実の親にそういう恐怖感を植えつけられてるって、異常……ですよね」
なんでだろう。どんどん口が滑らかになる。
「でも、また別のどこかで思ってるんです。本当の親なんだから、殺しはしないよね。最期の最後はいつも、自分で死んでよって感じだったんだから、なんて。きっとママの中に躊躇いがあるって」
信じたかったんだ、いつも。ママのことが好きだからこそ。
「バカ、ですよね。凌平さんがいうように」
これからの発表が終わったら、あの花畑を近くで見てみたいな。そんな呑気なことを思ってるあたし。
「だからお兄ちゃんやお父さんが必死になってくれてることが、どうしてなのかわからなくなったりもするんです。自分のためにしてくれてるのに」
「確かにそれ言われちゃったら、あの二人、身も蓋もないね」
どこか楽しげに笑って返事をくれた。
「きっと死ぬことはないよ。だから何もしなくていいのにって。あたしのために疲れてほしくないって」
「そっか。マナは、本当にあの二人をマナなりに大事に想ってるんだね」
そう言われ、深呼吸をしてみた。