spiral

「……つっ」

ジクジクした痛みが腕に走った。その直後から、一ヶ所だけが熱くて痛む。

「あ……」

かばうようにした腕が、ママの刃物で切られていた。

赤く流れていく血。制服に染みていく。

スカートの赤と緑のチェックにも、ポタポタと落ちて色づく血の色。これがリアルだと教えてくれる。

「かばうからよ、バカね」

そういいもう一度ママが刃物を振り上げた時、諦めたように腕を上げることすら止めた。

「何やってんだ!」

聞いたことがない声が聞こえた。凛として通る、はっきりとした声。

(誰?)

固まったまま身動きできない。

(誰でもいい。助けてくれるなら)

なんとかして這いずりながらも、その場を動こうとすると「そこを動くな」と同じ声に制された。

「は、はい」

反対からは「マナ!」と呼ぶ声。声の方に顔を向けると、お兄ちゃんの姿を見つけた。

お兄ちゃんに向かって腕を伸ばそうとした刹那、「屈め」と短く叫ぶ声。

反射的に従ったその頭上から、ヒュッという風の音の直後に「ぐっ」と苦しげなママの声が続いた。

頭をかばうようにして屈めてた体を起こし、立っている人を見上げた。

「それでも母親か、あんた」

耳を疑う。それと、目も。

「大丈夫か」

「心、さん?」

目の前にいる人がわからなくなった。さっき聞いた声。それは男の子の声だった。それは今も同じ。

「椿ちゃん!」

男の人がママに駆け寄る。手を攻撃されたらしい。反対の手で手首を抑えて唸っているママ。

「椿ちゃんに……っ」

逆上した男の人が、心さんに向かっていった。

「逃げて!心さん!」

そう叫んだ。でも、心さんは逃げもしなかった。やられるって思った。

「心配するな」

いつもの顔に男の子の声。心さんがゆっくりと息を吐き、構えて、次の一瞬でそれは終わった。

「うあぁっっ」

男の人が草の上でもんどりうっていった。

ポカンとして、ママと男の人を見てるしかできない。一体、何が起きたんだっけって整理が追いつかないんだ。

「シン!」

誰かの名前をお兄ちゃんが呼んだ。誰のこと?と視線をさ迷わせてみても、誰のことかさっぱりで。

「全国覇者が何やってんだよ。手ぇ、抜いたんだろうな」

そういいながらお兄ちゃんが話しかけたのは、心さん。

「え……、何?どういうこと、かな」

二人は当然のように会話をしている。あたしだけがわからないままで放心してる。

「……ごめん。嘘ついてた」

そういって悲しげに微笑む心さんが、今にも泣き出しそうだった。

< 162 / 221 >

この作品をシェア

pagetop