spiral
「勃つどころか、反応すらしなかったんだ。冗談抜きで。女の子が寄ってきてさ、触れてとかいろいろ言ってくるから触ってあげたりはした。……けど、違うんだよ」
「違う?」
経験のないことは想像しようもない。何が違うの?
「体が起き上がらない感覚っていうのかな。目が覚めないとも違うかな。んー」
と唸って、言葉を探してる。
「とにかく、他の女の子が今まで俺に触れてきた時にあったことが、マナにキスしても、触れても、甘えても、どんな気持ちになってもないんだ。……ゼロなんだよ」
何があったというんだろうか。今までの女の子たちと、あたし。どんな差が?
「もっと強く触れてみてよ」
「やっ。は、恥ずかしいです。は、は、初めてだし」
デニム越しに感じる、肉の塊。まだどこか柔らかい感触だけは理解した。
あたしの手の上から手を重ねてきて、そのまま押しつぶすほどの強さでその塊を触れさせた。
あたしが恥ずかしさで目を閉じていると、「ほら、何も起きない」と嬉しそうな声がした。
そっと目を開けて、凌平さんを見る。驚き目を見張るものが目の前にあった。
「凌平、さ……」
なんて表情をするんだろう。嬉しそうに笑ってるのに、目尻からは涙が伝っている。
「起きないんだ、何も」
言葉をただ繰り返す。
「起きないって、何が起きないんですか?」
起きなきゃダメなんじゃないのかと思ってたのに。男と女のってそういうものじゃなかったっけ。
小さな疑問を抱えるものの、目の前の凌平さんの顔に言葉を紡げずにいた。
「ないんだ、なにも」
そういい、また涙が伝っていく。
あまりにも切なげな泣き顔。涙を止めてあげたくて、その方法を探す。
「……フラッシュバックって言葉、知らない?」
まただ。あたしは、自分が思っているよりも言葉を知らないみたい。
わからない……と頷くと、少し唸ってから説明してくれた。
過去に女の子とそういう雰囲気になりかけても、好きになりかけた子がいても。
どんな子にも共通で起きたことがあって、そこから先に進めなくなった。
単に勃たないからとかじゃない。そんなに簡単なことじゃなかった。
「出てきちゃうんだよ、頭の中に。あの時のおふくろが。俺の上で腰を揺らしたおふくろ。それと、冷たくなってぶら下がってるおふくろが」
あの話は本物で、凌平さんの哀しみも本物で。とても深くて、辛い過去で。
「ほんと、初めてづくしだよ。マナって女の子は」
泣かないでと言いたいのに、嬉しそうに笑うの。