spiral

昔のように一人になろうとしている部分がある。

「や、だな……もう」

お兄ちゃんには勝てない。やっぱりあたしのお兄ちゃんだなって思った。

そうなんだ。あたし、周りをみることすら恐れていた。みたらきっと助けてくれる人がいる。

その存在は、罪悪感へと変わっていく。あたしにあって、ママになかったもの。

その存在を本当に素直に受け入れていいの?って、自分だけが楽してしまうようで。

ママの辛さを、本当に知ることが出来なくなる気もして。

そうすると、もっとママが遠くなってしまうんじゃないかって、どこかで焦ってた。

いつかはママと話したいって思ってるからなおのこと。育児をするようになってから、もっと話したい欲求が増したせいもある。

「……ママ」

しまいかけたノートをもう一度開く。その文字、ひとつひとつがママの叫び。

その途中、一度だけ書かれていた幸せの言葉。

『あたしのこと、ママって呼んだ。最初の言葉がママって、最高』

ボトボトと大粒の涙がノートにこぼれる。

一瞬だとしても、ママに幸せを感じさせられたことがあった事実。

「ママ……、ママ……」

産まれてから幾度となく呼んだその言葉。ママを喜ばせてた瞬間があったのに、今はきっとそれすら辛くさせている。

お父さんに、女の自分だけを見てほしいと願っての現状。

「ママ、今、幸せ?」

そうであると祈りたい気持ちになる。どうか、こんな風に線で消さなきゃいけない気持ちを生むことが起こりませんようにと。

母親になってわかる、ささやかな幸せの瞬間。それを逃したくない半面、怖くもなる。

ノートにはところどころそういう文章があふれていた。

ママの中にもあったのかな。

繰り返さなきゃいけないっていう、自分への刷り込みめいた感情が。

それと、自分は不幸だったんだから、この子だけ幸せなのは許せない……みたいな憎しみ。

「……ママの叫びだ」

そう思える短い言葉が、見落としそうになるノートの端っこにあった。

『笑いたい。助けて』

あたしを分かって欲しいって言ってるような叫びの言葉。

ここに書くことで気持ちをおさめてしまったんだろうか。ママはいつもただがんばってただけだった。

隣の部屋に歩き出し、泣いている秋をあやしている凌平さんをみつめる。

あたしに気づくと、何も言わずに微笑むだけ。それだけなのに、胸の中が満たされていく。

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