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「なるほど……そういうことか……」


お父様の視線が、ゆっくりと私から柏原に移る。

柏原は、ギクッと硬直して視線をさまよわせた。



「旦那様……いえ、お嬢様。私をクビにするのはかまいませんが、突拍子もない発言はなさらないでください」


「あら、私は本気よ。柏原も覚悟を決めなさい。ね? お父様いいでしょう?」



お父様は大きく頷いた。


「茉莉果がそうしたいなら、かまわない。ただ、ちょっと寂しいなぁ」



「お母様は?」


「全然、オッケーよ」


「やったー!」


柏原、ゲットよー!


「駄目です! 奥様、旦那様! 世間体が……紫音家は由緒正しい家系なのですから……」



「あら? 陽子さん、私には父親がいない事をご存知ないのかしら……母は私をシングルマザーで産み育てわ」


お母様は歌うような声を出す。

お母様の母とは、おばあ様の事だ。私を育ててくれた、おばあ様……確かにおじい様と呼ばれる人は、一度も見たことも聞いたこともなかった。



「ですが……私など素性のわからぬ者を……よろしいのですか?」

お父様は、大きく頷く。一瞬、柏原が黒い笑みを見せたような気がした。

だけど、すぐに困惑した顔をする。


「それに柏原くんは、腕相撲が強いから大丈夫。間違いない」



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