BLack†NOBLE
俺が見た限り、豪遊を好む蔵人の船に充分な食料がない。それはとても不自然な事だ。
予想外にこの船を、出港させなくてはならない事態なのだろう。
それはつまり……ローザにも危険が迫っているのかもしれない。
一刻もはやくシチリアに向かわなくてはならない。
もし蔵人がそう判断したとしたなら……
波しぶきがあがり、船が大きく揺れた。
『危ない! わぉ!』アリシアが抱きついてきた。
両手で顔を覆う。
『蔵人は、どこにいる?』低い声が出た。久々に誰かを思う存分殴りたい気分だ。
こんな暴力的な感情、もう無くなっていたと思っていた。俺たちはやっぱり兄弟だ。
『船内の部屋でレイジと話があるんだって、私、追い出されたよ』
頭を大きく振り、頬を両手で叩く。乱れた髪をかきあげ、膝に手をつき立ち上がる。
デッキから船内への入り口は一ヶ所だ。
そこには物々しい装備の護衛がいたが、俺が近づくと扉を開いてくれた。