BLack†NOBLE
ローザの車椅子を、蔵人は器用に回転させて押す。とても馴れている。いつもこうしているんだろうな。
俺も二人に続いてマンションの部屋に入った。白で統一された室内は、オリーブを炒めた良い香りがしている。
レイジをはじめとする蔵人のファミリーは、庭の外で待つ気らしい。部屋には使用人の女が二人いた。楽しそうにダイニングテーブルに料理を並べていた。
『三日前から……ここの警備が強化されたみたいだけど、何があったのかしら?』
ダイニングテーブルの傍で、蔵人は片足を使い車椅子にロックをかける。
『コッグとグレコがイタリアに戻ってきた』
ローザの彫りの深い顔が沈痛な面持ちに変わる。ダイニングテーブルの料理に落とされた視線。料理を見ているわけじゃない。もっと、別のことを考えているようだ。
使用人が蔵人の椅子を引く。そこに座り、ローザの皺が刻まれた手を握る。
俺も椅子に座ってみたが……溢れた疑問をいつ二人が解決してくれるのか待ちきれずに苛々ばかりが募る。