BLack†NOBLE



「ローザは?」


「もう寝たよ。ご婦人の夜は短い」



 蔵人は折り畳まれている椅子を二脚広げると、『俺にもグラニータを』と使用人に声をかけて、そこに座る。



「瑠威も、座ったらどうだ? 今夜は、エリダヌスが見える」


 デッキチェアに座り、蔵人と同じ角度の視線に合わせる。

 オリオン座の足元リゲルのそばから、南西へ大きくうねりながら伸びているエリダヌス座。

 それはマゼラン星雲のそばまで達する。イタリアでは、その長さと偉大さからポー河と称えられている。



「日本ではエリダヌスは半分しか見えないんだ……」

「そうか、日本に行ったことがないから知らなかった。一度行ってみたい」



「お前が来て楽しめるような国じゃない」


「そうか……」





 星座の神話を、幼い頃蔵人と一緒に行ったナイトキャンプで教わったことがある。


 北イタリアのアルプス山脈の麓で、満天の星空を観測した。こうしていると、記憶が鮮明に甦る。


 テントを張り、天体望遠鏡と座標を用意して……蔵人は誰より星座を正確に見つけることができた。


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