BLack†NOBLE


 細い体は、小さく震えていた。背中を軽く叩いてやるとアリシアは声を出して泣きついてきた。

 やっぱり、このチョッキは蔵人が着るべきだ。それを脱いで、アリシアに着せた。


『ヘリが着いたら、ここから逃げるぞ。今はまだ泣くな』


『わ……わかった……』


『蔵人も一緒に連れて行く』


『うん』



 遠くから無数のパトカーのサイレン音が響く。やっと来たか、随分呑気だな。



 これで奴等は、海を引き返していくだろう。

 アリシアを一度強く抱き締め、俺は運転席に移動した。

 そして、三発しか弾丸の入っていない銃の安全レバーを解除する。



 自慢じゃないが、俺は普通の執事だ。生身の人間だけは撃ったことはない。


 狭い桟橋の上で、車をUターンさせる。後部でピシッと音がした。弾が当たったのかもしれない。


 頑丈なマセラティは、びくともしない。



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