BLack†NOBLE
────フィレンツェの居城 。主のいない屋敷は、ひっそりと静まりかえっていた。
僅か二日、ここを離れていただけだ。それなのに今の俺は、何の感情もないただの人形だ。
今まで生きてきた意味。家族と過ごして来た日々。蔵人と共に学んできた事は一体なんだったんだろうか?
何も知らずに、その全てを蔵人に押し付けて、彼女との楽しい日々を思い描いていた自分はなんて浅はかだったんだろう。
『おかえりなさいませ瑠威様』
車を降りると、早朝にも関わらずファミリーの長い列ができていた。 黒いスーツに黒いタイは、マフィアの象徴だと彼女は言っていた。
皆が、一様に同じ角度に頭を下げて綺麗な列をなすが、疑わし気に敵意の視線を寄越す奴もいる。
『……無理して頭を下げなくていい』
屋敷の男たちは、俺をまだファミリーの一員と認めたわけではない。蔵人の弟だから、仕方なく頭を下げているだけだ。俺には蔵人程の力はない。
『瑠威様、屋敷へ入りましょう。着替えをご用意いたします』
レイジは、忠誠心を込め深く頭を下げる。
蔵人の血が染み付いた黒いトレンチは、水分が乾き硬く重い……止血の為に破いたシャツはだらしなくぶら下がっていた。