BLack†NOBLE


 たった二日前までは、当たり前のように触れてきた柔らかな白い肌。冷たい手を、一瞬で暖めてくれるだろう。



 けれども血で染まった手を、出すことは出来なかった。冷たく汚されている。



 彼女は今すぐ日本に帰らせたほうがいい……それが彼女の幸せになる……
 





 今、決定的に気がついてしまった。俺は彼女か蔵人を選択しなければならないことを……

 そして、蔵人を見捨てるなんてことはできないことを。


 俺なんかいなくても、どうにかなるかもしれないが……彼女との平穏な六年を与えてくれていたのは蔵人だ。


「……くそっ」




 彼女の頬に水滴が落ちる。自分が流した涙だとは思えなかった。

 情けない、こんな顔。誰にも見せられない……



「……ん」と煩わしそうに彼女の手がそれを擦った。




< 222 / 509 >

この作品をシェア

pagetop