BLack†NOBLE
「この地域のマフィアでしたら、白昼に観光客で賑わう通りを好んで歩くとは思えません」


「そうかしら? だってお父様が大好きな映画『ゴットファーファ』に出てくるマフィアは皆、さっきの人みたいだったわ」

 
 ゴットファーファ……

 物凄く可愛らしい名前だが、多分『ゴットファーザー』の間違いだろう。


 家族の絆、誓い、信頼を描いた作品。あの旦那様が好きそうな作品だ。



「お嬢様、もうすぐですよ」


 アルノ河の対岸を少し歩き、古い集落を抜けていく。

 建物の間を通る風が変化すると、小高い丘に共同墓地が広がっている。


「実は、私もここに来たのは二回目です」


「そうなの? でも、そうよね。柏原が日本に来てから私達は、ずっと一緒にいたものね」



 小さな墓地に、崩れ落ちそうな教会。人の姿はなく、俺たちしかいない

 柔らかな日差しが注いでいる。


「確か……こちらです」



 両親が事故で亡くなり
 ただ一人、喪失感で途方に暮れていた俺に……今隣にいる彼女の父親が声をかけてくれたんだ。


 両親の遺体を埋葬し、この墓地を手配してくれた。

 きっと、彼女の父親がいなかったら両親に墓地も用意してやれなかったかもしれない。



「ここです……」


真っ白な石に


Tasuku & Ai

KASHIWABARA


シンプルなローマ字が刻みこまれている。


 静かに手を合わせた茉莉果お嬢様…………



 けれども、そこには不自然な程に生き生きとした生花が手向けられていた。

 白く大輪の百合の花が、何十と良い香りを漂わせている。


「この花も、お父様とお母様が贈ってくれたものかしら?」


「いえ……わかりません……」



 誰からだろう?

 父と母に、花を手向ける奴がいるとしたら…………
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