BLack†NOBLE
16.sedici


────漆黒のシルクタイは、ウィンザーノットで締める。

 輪を作り、左右に一回転ずつ絡ませ幅の広い結び目が完成する。


 大きな鏡で、曲がっていないか微調整を加えて漆黒のジャケットを羽織る。




『瑠威様、ローザンヌ様からお電話です』


 レイジが着替えを済ませた俺に、一台のコードレスハンディフォンを差し出した。


『ローザから?』


 ハンディフォンからは、微かなメロディが聞こえる。


『茉莉果様は、夕食の席でお待ちです』

『わかった。すぐに行くと伝えてくれ』


 ハンディフォンを受け取り、赤く点滅するボタンを押す。



『はい……お電話かわりました』


『あら? この声は、瑠威ね……クロードはどうしたのかしら……』



 ローザは年のわりに、聴力は衰えていないようだ。一度しか会ったことのない俺の声を聞き分けた。

 昔から蔵人とは顔だけじゃなく声も似てると言われてきた。


 俺たちの声を確実に聞き分けられたのは母親以外でははじめてだ。


『申し訳ございません。只今、蔵人は不在でして……』


 ハンディフォンは静かに沈黙した。俺は、嘘はついていない。


『それならレイジさんから伝えてくれてもよかったのに、何故電話は瑠威へと手渡されたのかしら?』




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