BLack†NOBLE
ガソリンでモーターを回し運河を逆流していくクルーザー。屋根しかない船上は、凄まじい風が吹きぬけて不安定だ。
ベニスの街を切り裂くように俺たちは進んでいく。
蔵人は両手を組んでうつ向いたままだ。黒い髪が風で乱れる。
「大丈夫か? 蔵人」
冷酷非道な蔵人は人を殺せない……
俺が、一番よく知っていて信じてやらなければならなかった。
俺も蔵人も、殺せないんだ……
「瑠威、多分コッグとグレコは俺か瑠威に殺して欲しかったんだと思う。
俺に負けて、この国を追放されて……死に物狂いで生きていた……
コッグとグレコは、マフィアとしてこの国で死にたかったんだと思う……」
弱々しい蔵人の声、頭がぐらりと揺れた。
『クロード様!』
レイジが抱きかかえて、すぐに仰向けに寝かされた。
『本土に医者が待機してます』
『わかった。急げ……クロード様、無茶はなさらないでください』