BLack†NOBLE
『クロード様、どの様な曲をかけましょうか?』
レイジが、蔵人の傍らに膝をつく。体格のいいレイジが、体を小さくしても岩の塊みたいだ。
『日本人のピアニストの曲を流せ! CDがあるだろ? 紫音夫妻の曲だ』
これは、俺に対する嫌がらせだ……
「瑠威も好きだろ? あの夫妻の楽曲は、少し奇抜だが暖かい」
カンパリのグラスを持つと、蔵人は俺のグラスに小さくぶつける。
「近々、ここで生演奏の依頼をしてみよう。瑠威は、何度も聞いた事あるんだろう?」
………………っくそ
性格がひねくり曲がっているな。こんな兄がいる事を、あの人たちには、絶対に知らたくない。マフィアの身内がいるなんて、旦那様にどんな顔をされるだろう。想像するだけで、目眩がする。
そんな俺にかまうことなく、美しいピアノの旋律が響き渡る。
この曲は、茉莉果お嬢様の父親が作曲し、母親が演奏する特別な曲だ。本来ならば、こんな忌々しい場所で聴く曲ではない。
紫音夫妻は、世界での演奏活動をしながらも病院や養護施設などを訪問してはチャリティーイベントなどにも精力的に参加されている。
その崇高な考えを、この蔵人には絶対理解できない。