解ける螺旋
ハッとして顔を上げると、少し手前で立ち止まって、眉をひそめて私を見ている樫本先生の姿があった。


「……あ……」


その姿に、ドキンと鼓動が大きく音を立てる。


どんな顔をして先生の前に出ればいいのか。
そんな事を考えて、恥ずかしくて研究室に行けずにいたのに。
今、先生の視線に晒されて、物凄く緊張している自分に気付く。


一番先に感じる感情なんか何にもわからなかった。
ただドキドキして、立っているのも苦しい位、心に何かが湧き上がって来る事しか感じられない。


「……」


黙ったままの私に小さく溜め息をついて、先生は何も言わずに近付いて来る。
距離が狭まる毎に私の鼓動は高鳴るのに。
先生はフッと私の横を通り過ぎる。
そしてマンションのエントランスに入ってしまう。


たったそれだけの事がとても寂しくて。


「ま、待って下さい! 樫本先生……!」


思わず振り返って呼び止める。
先生はその場に立ち止まると、首だけ動かして私を一瞥した。


「何か用?」


冷たい声。
それだけでも虚勢を張っていた心が萎えてしまうのを必死に堪えた。
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