解ける螺旋
マンションまでの一本道に入って、私は足を止めた。
もう逢えないかもしれないと思っていた人。
だけどこのままじゃ嫌だと本気で思えたから。


だから今。
マンションの壁に背を預けて腕組みしてこっちを見てる愁夜さんを見付けて、良かったって思った。
あれで最後にならなくて良かった。
また逢えて良かった。


本当は直ぐに駆け寄りたかった。
だけど私はその姿を見失わない様に、愁夜さんから目を逸らさずにゆっくり近付いて行った。


走り出したい衝動に駆られながら、愁夜さんが私を見つめ返してくれているのを感じていたくて、呼吸を整えながらただ歩いて行く。
近付くに連れて、愁夜さんの表情がはっきり確認出来る様になる。


一歩も動かないまま私を見つめている愁夜さんは、口の端を微かに上げて、ちょっと皮肉めいた、だけど私が良く知ってる笑みを浮かべていた。
声の届く距離に来ても、名前を呼べない。駆け寄る事も出来ない。
距離を狭めているはずなのに愁夜さんの輪郭がぼやけて見える。


そう気付いて初めて、私は涙が零れているのを知った。


「……久しぶりです」


時間を掛けて愁夜さんの前に辿り着いて、私はようやく声を出した。
愁夜さんは少しだけ眉を動かして、


「そうだっけ?」


と短く答えた。
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