解ける螺旋
嘘、と、奈月の呟く声が胸元から聞こえた。


「だって。だってそうしたら、私は何に対して五年も挑み続けて来たのか。
……再会したら絶対に、愁夜さんに私を好きだって言わせてやるって。
私はそれだけを支えにして来たのに。
……五年もずっと」


混乱した様に口走る奈月に、俺は言われた事を思い出していた。


そう言えばそう言われた。
俺がこの身体に戻って来る直前に。


『絶対に好きだって言わせてみせる』


そんな言葉で挑まれた。


だけど奈月を好きになったら俺の負けだと言うのなら、挑まれた時点で勝負はもうついていたんだから勝負にすらならない。


「……うん。勝負は俺の負けでいい」


どこまでも甘え上手に育ったらしい俺は、奈月の身体を抱きしめて首筋にキスを落とした。


「な、なんか調子狂うよ。
愁夜さんが優しくて素直だと」


抱きしめた身体からは奈月の鼓動が伝わって来る。


「酷い俺の方がいい?」


奈月にはそう返事をしておきながら、実際は俺自身でも同じ事を考えていた。


「……心配になる。
熟年看護師とかにも上手く取り入って可愛がられてそう」

「……」


実は俺も同じ事を考えたとはさすがに言えない。
でも今の自分の言動や心の動きをこうして見ていると、十分考えられそうで怖い。


「まあ、それが素で、自覚なしだと思いたいけど。
……今度病院で評判聞いてみようかな」

「明日から俺が自分で気を付けるから、止めてくれ」


そう溜め息をつきながら、奈月の口から出た病院と言う言葉に、ふと真美を思い出した。
< 276 / 301 >

この作品をシェア

pagetop