解ける螺旋
「……病院と言えば。
真美が結城財閥の病院から俺の病院に転院してたのもそのせいかな。
この世界の俺とと奈月に接点がなかったなら、真美が結城と君の婚約で結城を諦めようとするのも当たり前か。
……まさか俺が奈月と、なんて思う訳ないんだし」


何気ない俺の呟きに、奈月も何の事だかわかったらしく顔を上げた。


「え? ……健太郎を諦めるって。
困ったな。健太郎は頑張ってるのに。
……って、え? 真美さん、愁夜さんの病院に入院してるの?」

「そうだったらしいね。なんだ、知らなかったの?」

「だって私は真美さんとは直接関係出来る訳じゃないし。
健太郎伝に真美さんの話を聞くだけで。
さらにそこから愁夜さんの状況を知るのだって、結構苦労したんだから。
それに婚約の話が出た後で、真美さんは健太郎にも黙って転院しちゃって、連絡とれなかったみたいだし」

「それもそっか。
でも真美が転院したのは、やっぱり結城との問題のせいか。
確かに別れる恋人の病院じゃ気まずい」


なるほど、とは思ったけれど、それが真美の本心なのか。
今朝俺の前では笑っていたけれど。
本当に真美が、結城と奈月の結婚の邪魔をしない様に、自分が結城の前から姿を消すなんて行動を起こしたんだろうか。


「……他人事みたいに」


奈月が小さな溜め息をつく。


――他人事、と言うか。
何となく俺が絡んでいそうで、嫌な予感がしないでもない……けれど。
俺は少しだけ思考を巡らせる。


どっちにしても真美の問題だけじゃなく、俺にとってもこの婚約は破談にしなければいけない事に変わりはない。
今この状況をしっかり把握するには、やっぱり結城と会う他に方法はないのかもしれない。


「やっぱり戻った事を伝えて、健太郎にお願いして話をしてもらった方がいいんじゃない?」


奈月も俺と同じ事を考えていたんだ、と思った。
だけど、でも。


「……俺が結城に」


――お願い、か。
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